第3章 想いを言葉に
             
 
「うん、またね」
 絵奈は携帯電話を切ってから、ぼんやりと少し暗くなり始めた空を見上げた。
 親友と遊び回った後、新刊の漫画を買ったりして少し一人で過ごした後、ふと友人に電話をしたくなったのだ。
「……いないかぁ。言っても仕方が無いことだってあるんだよ」
 ため息混じりに呟き、閉じた携帯電話をじっと見つめていた。
「……」
 急に意を決した表情で絵奈はもう一度奈々緒に電話を掛けた。
「……出ない」
 今度は出てこず、伝言の録音につながってしまった。
 時間帯が丁度、夕食時のせいだろうか。
「……奈々緒、私ね高校に入学して一緒のクラスになった時、話しかけてくれたでしょ。その時から私……」
 絵奈はかけ直しはせず、緊張で強ばる声で伝言を吹き込み始めた。
 最も伝えたい想いを言葉にするその瞬間、鼓動が最高潮に速くなりめまいを感じるも唇は動く。
「ずっと好きだった。好きって言っても親友としてじゃなくて」
 奈々緒が告白されたのを知ってどれだけ辛かっただろうか。そしてそれを断ったことを知って友として残念がる裏に安心する気持ちがいくばかりだったのか。
 だからこその告白。親友が誰かの彼女になる前に伝えたかった。万に一つ億に一つも自分に可能性は無いと分かっていても。
「……別に奈々緒と付き合いたいとかじゃないから。ただ、伝えたかっただけだから。本当に良かったら返事を聞かせて。また月曜日にね」
 そう言って絵奈は携帯電話を切った。言うべき想いは全て言葉にした。後は、奈々緒がどう受け取ってくれるかだけ。
「……はぁ」
 絵奈は携帯電話を切って片付け、暗くなりつつある空を見上げた。
 とりあえず、帰って月曜日への心の準備をしなければ。
 
 しかし、絵奈が自宅に戻ることも奈々緒の返事を聞くこともできなかった。彼女の想いはここで終わってしまった。
 ただ、一人の心には悲しみと戸惑いを残して……。