第2章 いつもの日
 
 
「こんなものかな」
 17歳の女子高生奈々緒は宿題に勤しんでいた。本当なら金曜日に済ますべき事を今必死にやっているのだ。
「はぁ、先にやっておけばよかった」
 答えを書く手を止めてため息をつく。今日ははさんざん親友を遊び回って必死に宿題をしているのだ。
「……絵奈、少しおかしかったなぁ」
 今日、一緒に遊び回った親友のことを思い出していた。
 遊んでいる間もぼんやりとしている感じだったのだ。訊ねても大丈夫だと笑うばかり。
「……何かあったのかな」
 考えている最中に突然、近くに置いていた携帯電話が鳴り始めた。
「誰からだろう」
 けたたましく鳴り響く音はメールではなく電話の合図。急いで着信を確認し、電話に出た。
「絵奈かぁ。大丈夫だよ」
 今話しても大丈夫かという相手からの質問に奈々緒は宿題を放置して付き合うことに。
「でも今日は面白かったよね。あの映画、絵奈の通り当たりだったし」
 今日遊んで楽しかったことを言葉にした。相手はとても嬉しそうに聞いている。
「何で急にその話になるの」
 思いがけない話に向かったので思わず異を唱えた。
 電話の向こうで親友が話し出したのは2週間前に隣のクラスの男子に告白されて断ったことだった。あの時も同じように親友に残念なことをしたのではないかとしつこく聞かれたものだ。
「告白断ったのは興味が無かったからだよ」
 前と同じようにあっさりと無関心丸出しの声で答えた。絵奈はその声の色に相手が可哀想だと言い始める。
「ひどいって絵奈はどうなの?」
 あまりに言葉の攻撃を受けて散々な気持ちになり出した奈々緒は逆に質問をふっかけた。
「ほら、絵奈だっていないじゃん」
 余計なことをしてしまったとい言わんばかりのもっそりとした口調で相手はいないと答えた。その答えに奈々緒は思わず嬉々とした。
 それから何かとお喋りをした後、
「それじゃ、またね」
 別れの挨拶をして切った。
「奈々、ご飯よ」
 丁度良い具合に母親の呼び声がした。いつの間にか宿題のことを忘れて話し込んでしまったようだ。
「あ、はーい。今行く」
 奈々緒は携帯電話を充電器に接続して部屋を出た。
 彼女が自室に戻ったのは食事と入浴を終えてからだった。
 
 宿題に夢中の彼女は携帯電話が光っていることにも気付かなかった。気付いたのは翌朝のことだった。
 そして、翌日すっと思い悩むことになるとは思いもせず、眠りの世界に入って行った。